自転車男
国道を気持ちよく走っていると、車道と歩道を隔てている
かなりしっかりした鉄柵の道路側に子供がもたれるようにして
座っていて、その横に女性がオートバイのヘルメットをかぶった
まま少しかがんだ姿勢で話しかけていた。
(事故なのかなあ。)と思いながら、少し進んだところで止まって見て
いたが、そこから動く様子が無いので歩道を走ってそこまで戻った。
大丈夫ですか、と声をかけてみたところ、子供がこんなところに座り込んで
いるから、危ないから歩道の方に移動しなさいって言っている
のだけど、手すりをつかんで動こうとしない、ということだった。
小学校低学年くらいの小さい男の子だったので、ちょいとゴメンよ、とかわいい
指を手すりからほどいて、子供の体ごと両手で持ち上げて歩道側に置いた。
そうしたら今度は歩道の端っこにある金網をつかんで座り込んでしまった。
まあでもこれで心配は無くなったな、さて先を急ごう、と思ったのだけど
女の人はまたさっきまでのように子供の横にかがみ込んで、いったいどうしたの、
家はどこなの、お姉ちゃんと一緒に帰ろうか、と笑顔で話しかけ続けている。
最初は、いっさい口をきかなかったその子なのだけど、徐々に、友達、先に行った、
ボール、あっち、と単語だけだがしゃべるようになり。そして緊張しきった表情も
やわらいできて、金網からも手を離した、手品を見ているようだった。
あーこうやってゆっくりと緊張をほぐしてあげればいいんだ。トラック、ダンプも多い
道路の脇に座り込んでいてすごく恐かっただろうし、それにボールや友達が
どこかにいってしまったっていうのもつらかったんだろうな。
いきなり子供が走り出した、私は自転車、彼女は原付で急いで追いかける。
次の角を左に曲がった、そっちだったら車も少ないし安心だ。
すぐに私たちが追いつくと、こっちをみて初めて笑った。
やっぱり心配だしこの子を家まで届けましょうか、と原付をそこに止めて
またその子に何度も、おうちはどこ、お姉ちゃんと一緒に帰ろう、って
話しかけていた。またいきなり走りだしても困るので、彼女は男の子の右手
をとって歩き出した、そうしたらその子が左手を私の方に差し出してくる。
なんとも照れくさいのだけど中腰になって小さな手を取る、子供と手をつなぐ
なんて初めてのことだ、小さくて柔らかい。
彼女と私の間でときおりぶらさがってみたりするその子、私の右手は落車で
脱臼中なので少し痛かったけど、子供の手を女の子と一緒につないで歩く
という独身の私にはあまり無い状況を楽しんでいた。
その子の頭越しに、どこへ行くところだったんですか、このまま木津のほうまで、
私は買い物帰りでそしたらこの子が座り込んでいたので、と会話をする。
季節は春、周りには菜の花が咲いて、時折吹く風も気持ちがいい。
少し間抜けなのは彼女は原付の半キャップをかぶり、私は自転車ヘルメット
をかぶっている。背の低い人が両手を持ちあげられるようにしていることを
捕まえられた宇宙人状態、なんていうことがあるけど、これでは宇宙人に確保
された地球人だ。足首までのピチピチタイツにピンクのジャージ、カツカツと
音をたてる靴、キノコ頭の男女の宇宙人に連行される地球の子供。
公園に行こうとしたり、また金網に張り付いてみたり、走り出したりもしたけど
なんとか家までたどり着いた。お母さんに事情を説明し、ありがとうございます
と言われた。子供に手を振り、玄関のドアが閉まるのを確認して、原付を駐めた
場所まで一緒に歩いた。23歳、今日は仕事が休みなのでスーパーでお買い物、
35歳、昼から休みなので怪我をしてから初めての長距離、僕は大阪市内、
家はすぐ近くです。子供を発見してから1時間くらいたっていた。
ガチガチだったあの子の緊張をゆっくりと彼女がほぐしていくのを見ていて
きっと優しい子なんだろうな、と考えていた、原付が見えてきた。
彼女と仲良くなることを期待しているわけではないんだけど、突如あらわれた
非日常な出来事が終わってしまうのが寂しかった。彼女は原付のエンジンをかけて
私はビンディングをはめた。ヘルメットのストラップを締め直している間に
ありがとうございました、の言葉を残して走っていった。ケンカの弱い貧弱な体の
ダンプの運転手さんが彼女に絡んでくれていないものか、と考えてはみたけど
そんなことはやっぱり無かった、下りに入ったのでギアを重くして追い風に乗って
スピードをあげた。
「13号線、枚方 樟葉 子供 友達、ボール、あっち、赤色の自転車
ピンクのジャージ、青い靴、」
彼女が検索エンジンで昨日の出来事を検索した時のために
キーワードを並べておこう。もしこのページにたどりついたなら
you_are_my_destiny@kanatani.netまでメールください。
昨日の出会いの記念にティーカップを贈りますので
紅茶を持って遊びにきてください、峠を原付で先導してくれると
もっとうれしいです(^_^;)

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